達人に学ぶ

第4回 京都の芸妓舞妓の育成と評価−顧客と育成責任者と被育成者の関係性−

楠田:
お客様から、「座持ち」を含め、全般的な能力の評価をいただくという話を伺いました。芸舞妓の育成プロセスにおける「お客様の役割」について教えてください。
西尾:

お客様からの評価は、座持ちを育成していく上でとても重要です。また、お客様に継続してお花をかけてもらう(お座敷に呼んでもらう)ためにも、お客様からの評価をフィードバックさせることは不可欠です。

あるお客様が「あの妓は、座持ちが悪かった」と、お茶屋のお母さん伝えたとします。この場合、お客様は単に舞妓が気に入らなかったというだけでなく、育成者としての役割を果たすとともに、馴染みのお茶屋の質を高めようとしたのです。お客様にとって若い女性を育てることは、楽しみであると同時に、お茶屋のサービスを向上させ、ひいては自分自身の満足度(顧客満足度)を高めることでもあるのです。

あるお母さんによると、舞妓は2、3年目くらいになるとかなり技能が上がるのだそうですが、この時期は少し鼻が高くなる時期でもあるといいます。一通り芸事もお座敷もこなせるようになると、お客様もつき、売上も伸びるので、天狗になることもあるのだそうです。しかし、天狗になっている妓に対しては、ずっと見ていたお客様が厳しく指摘をするといいます。このことからも、舞妓は単純に見た目だけでお客様から支持を得ているわけではないことが分かります。


舞妓さん写真

ここからは、また少し別の話になりますが、花街の評価には、ある特色があります。花街の学校は、芸舞妓が現役である限りは、生徒として通わなければならないので、新年に行われる始業式の日には全員が集まることになります。この場で、前年の売上成績の良い芸舞妓やお茶屋が表彰されます。芸妓・舞妓という職種の区別、経験年数に関係なく、花代の売上ランキングの上位者が発表され、「売花奨励賞」を受けるのです。

売上の記録は、お茶屋や置屋から“検番”というところにすべて集まります。検番を間に通して管理することで、不正ができない仕組みになっています。この透明な制度により、花街全体の情報が共有化され、表彰で全員のモチベーションが高まるのです。

自分の技量を積極的に磨こうとする賢い舞妓は、「(売上ランキング上位に名を連ねた)あのお姉さんとお座敷が一緒になったときは、どのような立ち居振る舞いをするのか、よく見ておこう」と考え、良いところを吸収しようとします。芸舞妓同士の切磋琢磨が、より良い座持ちにつながっていくのです。

楠田:
京都の花街の芸舞妓さんたちの世界では、舞妓に対して先行投資を行い、芸事の技能や座持ちの育成に力を入れていることがよく分かりました。そして、能力主義が徹底されていて、透明な評価が行われています。花街の学校、お茶屋のお母さん、置屋のお母さん、お姉さん、お客様から評価を受けること―すなわち360度の多面評価が成り立っています。彼女たちの世界には、今の時代の人事部門がめざす人事の仕組みが、コンパクトに、また完璧に作られていることがよくわかりました。
つまり、経営スタイルが攻めに入った企業にとっては、「舞妓時代は育成、芸妓時代は評価」「評価は育成の原点である」「多面的な評価により、気付きが多い」など、大いに学ぶべき点があるのではないでしょうか。
加護野忠男先生(神戸大学大学院経営学研究科教授)によると、京都・祇園から学べることは、芸舞妓のサービスの「アンバンドリング」という手法であるとおしゃられています。つまり、接客サービスをさまざまな要素に分解(アンバンドル)して外部化(アウトソーシング)しているという点です。 これによって、市場競争原理をうまく使うことができるというメリットが出てくるという訳です。 顧客にとってもありがたい存在であり、顧客満足度も向上できる仕組みができているということでもあると考えられるのではないでしょうか。

Cybax Learning Review No.40(2007/2/20)掲載]


◎西尾先生の著書が、東洋経済新報社より刊行されました。

『京都花街の経営学』 西尾 久美子 著 (東洋経済新報社)
― なぜ350年も続くのか? 気鋭の経営学者が、5年におよぶフィールドワークを実施。京都花街という「ビジネス」の秘密をあざやかに解き明かす。
次回は、東海大学 准教授の高野 進さんに、日本人総アスリート化計画についてお伺いします。

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